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破獄

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 破獄

 著者:吉村 昭 発行所:新潮社

 昭和の脱獄王の異名を持った白鳥由栄をモデルに書かれた小説。

 緒方拳主演でテレビドラマ化もされている。1日に120`を走り、手錠の鎖を引きちぎり、

 40歳過ぎても米俵を持って腕を水平にしていられる。また頭だけ抜けられれば、全身の

 関節を脱臼させて抜けられる特殊な能力を持っていた。まるでバットマンやスーパーマン

 の悪役に出てきそうなすごい人間である。明治40年青森で生まれて、28歳で収監、以来

 4度も脱獄したこの白鳥を佐久間という主人公に置き換えて小説は始まる。圧巻は、脱獄

 不可能と言われていた網走刑務所を脱獄した手口である。毎日、特製手錠のナットと視察

 窓の鉄棒のネジに味噌汁をたらして腐食させ、はずすことに成功して、その上で自分に対

 して最も厳しく扱う看守の当直日に決行している。佐久間は、獄舎を出てから外塀を越え

 るまで最短の時間と方法をとっている。独房に入り続けた佐久間が、刑務所内の地理をな

 ぜこれほどまでに熟知しているのか、関係者の頭を悩ませた。それは、空襲を仮定した退

 避訓練に参加したわずかな機会に、建物、塀の高さや位置関係、距離、立哨所などを頭に

 きざみこんだからだとわかり、そんな佐久間の記憶力、また緻密な計画性と行動力は、驚

 愕に値すると改めて思い知らされることとなる。もし、この能力を他に使っていたなら、

 すごい偉業を成し遂げたかも知れない。

 4度も脱獄した佐久間の処遇に頭を悩ませる占領軍のオックスフォード大尉は、自分の管轄

 外への移送を決める。そして、札幌刑務所から東京の府中刑務所へ護送するために、米軍専

 用の貨車を使用する超厳戒態勢が取られた。府中刑務所長鈴江は、佐久間を徹底的に調べ上

 げ、5度目の脱獄を防ぐにはどうすればよいか、何日も熟考を重ね、大胆なあつかいに心がけ、

 一人の囚人として特別扱いせずに接していった。反抗的だった佐久間も徐々に表情の変化が見

 られ、また炊場での力仕事に従事させることにより、仲間とも打ち解ける環境を作っていった。

 そして28歳から収監、4度の脱獄を経て、模範囚として54歳で仮出所となった。

 日雇い労務者として過ごし、71歳でこの世を去った。☆☆☆☆