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2018年11月21日

逆渡り

嶽神列伝 逆渡り(がくじんれつでん さかわたり)

著者:長谷川 卓 発行所:講談社

嶽神伝シリーズに度々登場している月草の話である。四三衆の月草。四三衆は、総勢65名。

5.6年置きに山を渡る渡りの民である。渡りを行う集落の多くは、六十になると、渡りや

新たな山での暮らしに耐えられないからとの理由で、置き去りにされる。口減らしである。

その文面を読んだ時に、楢山節考という昔の映画を思い出した。70歳になると冬山へ置き去り

にされる役を坂本スミ子が演じ、泣く泣くその母親を背におぶって山を登る息子役が緒方拳でした。

70歳を前に丈夫なきれいな歯が恥ずかしいとわざと折るという強烈な場面が焼きついています。

話が逸れましたが、表紙に舞う桜。

月草の亡くなった妻が、昔に住んでいたあの山桜の大木の下に埋めて欲しいと望んだ。月草は、

その山桜の下に遺骨を埋めて、守りながら最後を迎えようと北の山へ向かう。

武田・上杉の抗争の影響が、その道中の静かな山合にも及ぶ。☆☆☆☆☆

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きらきらと光りながら落ちてくる雫を見詰めた。光りが棒のように並んで落ちている。

きらめき、時に揺らぎ、だが間断なく落ちるその姿は、山が呼吸しているようだった。

月草は、己が一本の木になり、山の呼吸に合わせ、静かに枝を広げているように思った。

そんな思いにとらわれたのは、この山に入って初めてのことだった。

ようやく、この山と話が出来るようになったのだ。(本文より)

 

話が出来るようになった山を去る時、色々な事が頭をよぎった。

月草は、今日を生き、明日を生きるためには、今日まで歩いてきた道は正しかったのだ、

と思うしかないと、踏み出す足に力を込めた。